アーカイブ ‘ 2005年 5月

鬼平と博雅

小さいころから時代劇が好きです。
特に「鬼平犯科帳」
ドラマの中で、主人公の鬼平がたまに嘆くことがあります。
「最近は急ぎ仕事の盗賊が増えた」
昔は何年も前から密偵を大店にもぐりこませ、
じっくり機を伺って盗みに入り、金だけ盗んで人は殺さない。
親分も子分に対しての情が大変厚かった。
でも最近は、盗みの準備期間も何ヶ月、ひどければ何日。
女子供でも容赦なく殺し、金をあるだけ盗む。
盗賊内の規範もないようなもので、親分子分の間柄も冷めたもの。
昔はもっと大物の盗賊がいたものだが・・・
最近の盗賊は小物で、義というものを知らなくなった
という嘆きなのです。
現代にも通じる悩みのようで、昔もそうだったのね、と思っていました。
ところで、以前実家で片づけをしていたら
小学校時代に使っていた国語のドリルが出てきました。
懐かしくなって見返していたら、問題のひとつに源博雅が出てくる子分、
じゃなかった古文がありました。
夢枕獏の「陰陽師」にも出てくる実在の人物なんですが、
「陰陽師」の中のキャラクター設定がまた良い人で好きなんですよね~。
とても素朴?な性格の、楽の天才です。
ですので、おお、あの時の問題に出ていたのは彼だったのね、
と思って嬉しく読み返していました。
内容としては、うろ覚えですがこんな話です。
|源博雅が家にいると、強盗が押し入ってくる気配がしました。
|急いで縁の下に隠れて難を逃れると、強盗は金目の物を取って
|出ていったようでした。
|そこで縁の下から出て、部屋の中を見渡すと
|調度品が何もなくなった部屋の中に、ぽつんと横笛が残されていました。
|盗賊は横笛は金にならないと思い、置いていったんですね。

|そこで博雅は唯一残された横笛を手に取り、吹き始めました。
|(博雅氏のことだから、調度品は取られても横笛が残って良かった!
| と思ったのでしょうか)

|その頃、盗賊は高価な調度品をごっそり手に入れ
|ほくほくしながら帰路についていました。
|すると、さっき押し入った家のほうからなんとも言えない笛の音が
|聞こえてくるではありませんか。

|思わず笛の音に誘われ、来た道を引き返します。
|笛の音を辿っていくと、音はさっき自分が押し入った部屋から聞こえてきます。

|もう一度敷地の中に入り、そおっと音のする部屋を覗いてみると
|貴人が横笛を吹いています。

|一方の博雅氏。
|笛を吹いているうちに、強盗に入られたことも忘れて
|夢中で曲を吹いてます。
|しばらく吹いて、ようやく笛を下ろすと
|目の前に人がうな垂れて頭をたれていました。

|その人物は言います
|「実は自分はさっきこの家に盗みに入った泥棒です。
| やんごとなき笛の音に惹かれてこの家に戻り、笛の音を聞いていました。
| 聞いているうちに、自分のしたことが大変罪深いことだと気づきました。
| ですので、この品は全てお返し致します」

|そう言って、強盗は盗んだものを全て返し、去って行きました。

|昔の泥棒は、まだ雅(みやび)というものを理解していたんですよね。
|最近の泥棒はそんな感性もなくなって、嘆かわしい限りです。
・・・って、まあ!
平安時代には、盗賊にも雅の心が要求されたわけですね。
鬼平の時代にこんな盗賊がいたら、ずいぶんな変人と思われるだけでしょう。
盗賊が優雅でどうするの、と思うでしょう。
時代の価値観ってこんなものか、と
目からうろこが落ちた体験でした。
雅(みやび)の価値観を、粗暴な武士が足蹴(あしげ)にしてしまい
武士の価値観が義とか忠になって
でも義とか忠の価値観も、お金とか効率化という価値観に
足蹴にされているのが今なのかと思います。
ならば、いつかお金とか効率化という価値観も
全く別の価値観に足蹴にされる日がくるのでしょう。
何十年後か、何百年後かは分らないですが。
一方で、各時代でも共通の価値観
愛情、誠実さなどなど、もあるわけです。
時代によって、どの価値観がどんな風にクローズアップされるかの違い。
だから、その時代にクローズアップされていない価値観であっても
人道的に外れていない価値観であれば
それに基づいて生きたっていいんじゃないかな
と割り切れるようになりました。
もちろん、その時代に支配的な価値観ではないので
マイノリティー価値観に基づいても社会にどう貢献していくか
ということは真剣に考えないといけないですが。
以前に引き続き、自分の性格でこの時代にどう進んでいくの?
ということを考えていたときのできごとでした。

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